カタコト日本語を話す人物の正体とは?
…では、どうぞ。
彼は、日本人ではなかった。
というより、彼は「土居さん」ではなかった。
彼はベトナム人のグェンさんという人で、土居さんの会社でガイドを勤める人であった。
ちょっと見ると日本人のおじさんなのだが、色黒で筋張った感じが、東南アジアの人間をほうふつとさせる。
ようするに丸山弁護士みたいな人だ。
外はむっとする熱さだ。が、「キョウハスズシイ」とグェンさん。
しばらく待つと、1台のセダン車がやってきて、僕らの荷物を運転手(この人もベトナム人)がトランクに積み込み、僕らは後部座席、グェンさんが助手席という形で、4人で移動する事になった。
ツアーバスとか、それでなくてもワゴン車などがくると思っていたので、僕ら二人のためだけに運転手とガイド、車が用意されているとは思わず、ちょっと動揺した。
もしかしたら、いきなりサギなのでは?と疑ったが、どうしようもない。
まあ、僕らの名前を知っているということが、唯一の信用だろうか。
グェンさんは僕らが埼玉から来たことを話すと、
「ヘェ?サイタマ?」と小馬鹿にしたような声を出した。
…実際は小馬鹿にしたのではなく、驚きの表現だったのだが。
グェンさんは以前、会社の研修で日本に来たことがあり、その時埼玉の川口市に住んでいたのだそうだ。
川口といえば鋳物工場だとか、蕨市の何とか祭りだとか、細かいことを色々と覚えていた。僕はそれよりもベトナムのことを知りたかったのだが、エイコは実家が近いせいか、ホテルに到着するまで、グェンさんと地元トークを展開した。
空港から1時間、ハノイの中心地から少し離れたところにある「レイクサイドホテル」に到着する。
明日はハノイ観光をグェンさんにお願いしてあるが、今日はこれで自由である。
しかしエイコは部屋に入るなりベッドへ倒れこんだ。
車酔いである。確かにひどい運転だった。
僕はベトナムの交通事情をこの1時間で把握した。
とにかくバイク社会であること。道路の70%はバイクで埋まっているといってよい。
そしてバイクには、子供も入れて最大5人まで乗っているのを確認した。
排気ガスがひどいため、全員マフラーのようなもので鼻や口を隠している。
車は、急なバイクの飛び出しや、強引な車線変更に常に対応できなくてはならない。
信号も、大交差点でもない限りは存在しない。行けるときに行け、という感じだ。
そこで登場するのが「クラクション」である。とにかくひっきりなしにクラクションが鳴っている。
日本のような「最終警告」の意味はない。鳴らされてもだれも全く気に留めない。
このクラクションの嵐と、急ブレーキ、急発進の繰り返しで、彼女はダウンしてしまったのだった。
3階にあるホテルの部屋にいても、窓の外ではクラクションの嵐は止まなかった。
しかし、この後すぐ「別の嵐」がやってくることになる。
(続く)
二人を襲う「別の嵐」とは!?次回お楽しみに!!
…こういうのウザいですか?