トンレサプ湖に現れた子供達の話です。
では、どうぞ。
トンレサプ湖の中心で、次々と乗っていたボートから飛び降りる子供達。
彼らの中には、小さなタライを持っている子がいた。
そして、そのタライを水に浮かべ、その上に乗って、手で器用に漕ぎながら僕らの船にやってくるのだ。
あぐらでタライに乗って、ばたばたと前に進む様子は、オウム真理教の「空中浮揚」を思い起こさせた。
タライに乗った子と、泳いできた子が、僕らの船まで来た。
僕らの船はエンジンを切って止まっていたので、彼らは船のすぐ横につけた。
そして「1ドル、1ドル!」である。やっぱり。
幸い、僕らの座っている席は水面からある程度高さがあったので、タライキッズを見下ろしながら、「ノーノー」と言っていればよく、それほど迷惑ではなかった。
彼らも断られても全く気にすることなく、ニコニコしていた。
とりあえず外国人に話しかけるときには、「1ドル」と言ってみるのであろう。
しばらくタライキッズたちと戯れていると、僕らの後ろから別の観光客を乗せた船がやってきた。
すると、タライキッズたちは一目散にそちらのほうへタライを進めていく。
こうやって一日を過ごしているのだ。
ソンディさんは、「あれは べとなむの こどもですね」と言う。
そういえば、トンレサプ湖で気になることがあった。
船の行商をしている人や、水上生活者の一部には、ベトナムでよく見かける、頭にかぶる円錐形の笠(「ノン」と言うそうだ)をかぶった人がいた。
ベトナムからカンボジアに渡るとき、僕らはカンボジアのベトナムに対する嫌悪感について聞かされていて、「カンボジアでは、星のマークのTシャツや、ノンをかぶったりしないこと」と注意されていた。
僕はどちらも持っていなかったのでそれほど気にしていなかったが、トンレサプ湖ではそれが堂々と行われている。
詳しい話はわからないが、水上生活者の中には、わけあってベトナムから流れてきた人々もいるのではなかろうか。
やはり、水上生活者は、地に足が着いていない民なのかも知れない、と思った。
(続く)
明日はトンレサプ湖の帰り道です。