サイゴン川クルーズ、後半戦です。
では、どうぞ。
ホーチミンで、沖縄の「ゆいまーる」を聴く。
エキセントリックな体験である。それでいてあまり違和感がないのが不思議だ。
BGMのように船内に流れる曲を聴きながら、船は大きくUターンをし始めた。
いよいよ帰路である。
どこで引き返そうが関係ないぐらい、外には何もなかった。
単に時間の関係なのだろう。
しばらくするとエイコが急に、ある食事客の服装に異常な興味を示し始めた。
その客は日本人の女性二人組だったが、二人ともアオザイを着ていたのだ。
アオザイとは、ベトナムの民族衣装で、女性の身体のラインが明確に出る、要するにベトナム版のチャイナドレスだ。
上は七分袖で、下は足首ぐらいまで布で包まれるが、ももぐらいまでのスリットが入っている。
正直その二人は、似合っている人(A)と似合っていない人(B)の二人組だった。
日本の女性二人組を無作為に抽出すると、80%ぐらいがこの構成だろう。
つやのある原色で、日本では恥ずかしくて絶対に着られないこの服を、あろう事かエイコが欲しい、と言い出したのである。
脂肪分の行き場が無くて、血液に高密度で混じるぐらいの、このエイコがである。
「もっと現実をみた方がいい」とか「日本でどうするのか」とか色々説得をしたが、全く聞く耳を持たなかった。
彼女には、颯爽とした(A)さんの姿しか見えていないのだろう。
ガイドブックにも「現地でオーダーメイド!」とか無責任な扇動記事が載っていた。
近年まれにみる情熱をエイコに見た僕は、「わかった、一晩よく考えて、明日の朝も欲しかったら作ろう」と何とかその場をやり過ごすことに成功する。
そして、翌日。
エイコはまるで、熱病から冷めたように、
「昨日なぜあんなに欲しかったのかわからない」と、僕に語った。
「きっと、酔っていたんだよ」と僕は言った。やっぱり嫁は賢明だった。
(続く)
現地でみてると、ひょっとしたら日本でも着るかも、とか思っちゃうんですよねー。
ありえないですよね。